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東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)166号 判決

一 請求の原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続、発明の要旨および審決の理由に関する事実は、当事者間に争いがない。

二 原告は、審決の取消事由として、審決の理由中、本願発明(一)についてした引用例のものとの相違点に対する評価判断の不当を主張するので、その当否について考察する。

1 管状本体内径の数値限定

本願発明(一)は、その要旨によると、管状本体(その中央通路)の内径を「約一インチ(二・五四cm)以下」に限定している。

原告は、右限定は、他の構成要件と相俟ち、小さな容積をもつて大きな浄化効率を併わせ収めるための重要な要件であるとし、その根拠として、そらせ板が管状本体の中央部で隔置固定される構成であるから、管状本体内の通路が広くそのためその内径を小さくすることができると主張する。

ところで、右発明の要旨によれば、本願発明(一)においては、そらせ板の複数枚の羽根が「管状本体の中央通路の壁と内接し、中央部で隔置固定され」る構成ではあるが、そらせ板の円筒形ボス(別紙第一図面の7、〔編註〕省略)の直径やボスと管状本体とによつて形成される中央通路の広さについて、特許請求の範囲としては、何ら限定されていないことが明らかであるから、右構成と通路の広狭との間に特定の必然的な関係があるとはいえないし、他に、本願発明(一)の構成によつてはじめて、管状本体の内径を小さく設計できるものであることを認めるに足りる資料は存在しない。したがつて、原告の根拠とする前提は採用することができない。

次に、右限定による作用効果について考えるに、成立に争いのない甲第六号証(宣誓供述書)には、管状本体の内径一インチ以下のもの二例とそれを超えるもの二例とを対照した結果、前者の浄化効率がより優れていることを示す試験結果が記載されている。しかし、同号証によると、右試験は、管状本体の内径とピツチ長とをそれぞれ特定の数値としたうえで両者を比較していることが認められるところ、右条件の一つであるピツチ長については、本願発明(一)の要旨には存しない事項であるから、この点においてすでに、右試験結果は、本願発明(一)による作用効果を裏付ける資料としては価値がないものといわざるをえない。そして、他に、右限定による顕著な作用効果(特に、その上限の臨界的意義)を認めるに足りる証拠はない。

のみならず、成立に争いのない甲第三号証(本件特許出願の願書)によれば、本願明細書中、発明の詳細な説明に「そらせ板の羽根のピツチ長と管体内径(すなわちそらせ板の直径)との比率は空気清浄管体の圧力降下並びに粒子分離効果に極めて重要であることが判つた。種々の実験の結果、低い圧力降下と高い効率とを最もよく均衡させるピツチ長対直径比は次の等式によつて決定し得ることが知られた。……(中略)……この等式は、その直径が一インチ(二・五cm)よりも小さいそらせ板にも、また、一インチより大であるそらせ板にも適用可能である。」(第一七頁第一六行ないし第一八頁第一〇行目)との記載があることが認められ、この記載からすれば、請求の範囲における「約一インチ以下」の下限のみならず上限についても必ずしも明確にされていない本願明細書の記載のもとにおいては、管状本体の内径が一インチ以下のものとそれを超えるものとの間には格別作用効果上の差異を認めえないことになる。

したがつて、結局、本願発明(一)における管状本体内径の数値限定自体には特段の技術的意義を認めることができないから、これをもつて単なる設計的事項であるとした審決の判断は正当である。

2 そらせ板羽根の数値限定

本願発明(一)は、また、その要旨によると、そらせ板の羽根の長さを中央通路全長の約五〇ないし六〇%の範囲内に限定している。

原告は、まず、審決が右限定の目的、効果が当然の要請であることを理由として、右限定の技術的進歩を否定するのは失当であると主張する。しかし、審決の理由全体に徴すると、審決は、目的、効果が当然の要請であることから直ちに、それを達成するための技術的手段に進歩性がないと断定したものではなく、数値限定にかかる当該手段の進歩性を判断する一つの資料としてその目的、効果を参酌したにすぎないと解されるから、原告の非難は当らない。

次に、前出甲第三号証によれば、本願明細書中、発明の詳細な説明に「本発明は、塵埃を帯びた流入空気から実質的にすべての粒子を除去するとともに、空気清浄器による圧力降下を最小とした空気清浄器および空気清浄方法を提供する。本発明で渦型分離器の構成員間の関係ならびにその各々の形状を決定することによつて流動抵抗を極めて低くし、また殆ど乱流をなくし、同時に極めて高い分離効率を達成することによつてこのことをなしたのである。」(五頁第一九行ないし第六頁第七行目)および「そらせ板は比較的長くすべきで、その羽根は管体の有効長さの半分(但し、成立に争いのない甲第四号証によれば、補正によつて「半分」が「五〇%」に改められていることが認められる。)以上を占めることが好ましいが、管体の有効長さの六〇%以上になると、組立品を通るときの圧力降下が過大となり、また分離効率が悪くなるので、六〇%以上にしてはならない。」(第一六頁第一四行ないし第一九行目)との記載があることが認められ、これらを考えあわせると、本願発明は、渦型空気清浄器において圧力降下を小さくしながら塵埃分離効率を増大させることを課題の一つとするもので、その課題を解決する手段として、本願発明(一)においてそらせ板の羽根に前掲の数値限定を加えたものであるということができる。

ところで、右限定による作用効果については、前出甲第四号証(本願の手続補正書)によれば、本願明細書中、発明の詳細な説明に「ラセン形を有するそらせ板の長さが管体の有効長の五〇ないし六〇%の範囲内にあるとき最適の除塵率が得られることを示す」試験結果として第一表(第三頁)が記載されていることが認められる。しかし、同表の試験は、そらせ板の長さと管体の有効長さとの比率が(イ)本願発明(一)の範囲内のもの一例(五四・八%)、(ロ)上限値以上のもの一例(六四・五%)、(ハ)下限値以下のもの二例(三二・三および二七・四%)の合計四例について比較されているだけであり、また、被告も主張するように、(ハ)の二例は下限値の約五〇%より著しく下廻つているので、本願発明(一)の範囲の限界値附近のものがどのような結果を示すのか知る由もなく、結局、同表程度の試験結果では、本願発明(一)における「約五〇ないし六〇%」の範囲全域のものが「最適の除塵率が得られる」とするには甚だ不十分であり、他にこれを補充すべき資料は提出されていない。

しかも、空気清浄器において、羽根の長さを大きくするほかに、羽根の傾きを大きくしても空気の抵抗が増大し、それに伴い清浄器内の圧力降下が増大することは、原告も自認するところであるから、本願発明における圧力降下を小さくしながら分離効率を増大するという課題を達成するには、そらせ板の羽根の長さとともにその傾きの状態も重要な要件と考えられるが、本願発明(一)は、その要旨によると、「空気の流線とある角度をなした複数枚の羽根」とあるのみであつて、それ以外には羽根の傾きに関する規定はないのである。この点からしても、本願発明(一)において、単にそらせ板の羽根の長さを通路全長の約五〇ないし六〇%と限定しただけで、その作用効果が顕著なものになるとは容易に考えられない。

そうだとすれば、右限定による格別の作用効果は認められないことに帰着するから、引用例のものに右限定と同等の流れ案内羽根が示されているか否かについて検討するまでもなく、右限定については特段の技術的意義を認めることはできない。

したがつて、審決は、その理由づけにおいて右判示と異なる点はあるが、そらせ板羽根の数値限定に格別の技術的進歩性は認められないとした審決の判断は正当である。

以上のとおりであつて、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決が本願発明(一)について引用例との対比上その進歩性を否定したのは正当であつて、違法であるということはできない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

両端にそれぞれ入口および出口を有し、入口および出口の間に内径約一インチ(二・五四センチメートル)以下の中央通路を有する管状本体と、管状本体の入口に隣接してその中央通路に同軸に設置され、管状本体の入口から出口へ流れる空気の流線とある角度をなした複数枚の羽根が管状本体の中央通路の壁と内接し、中央部で隔置固定され、管状本体に流入する空気にラセン状の運動を起させて流入空気中の塵埃粒子を通路の周辺部に投飛ばして中心部の空気を比較的に清浄にするためのそらせ板と、両端にそれぞれ入口および出口を有し、入口および出口の間に中央通路を有する一般に管状の出口部品であつて、管状本体と同軸に、管状本体の中央通路より小さい直径を有するその入口を管状本体の出口内に設置して、その周辺と管状本体の内壁との間に環状通路を形成し、その中央通路を通して管状本体の中央通路の中心部から流出する清浄にされた空気流を取出し、その環状通路を通して管状本体の中央通路に生じた空気のラセン運動によつて周辺部に投飛ばされた塵埃粒子を含有する空気流を取出すための管状出口部品とを組合わせたものよりなり、前記そらせ板の羽根が管状本体の入口から管状排出部品の入口までの管状本体の中央通路の全長の約五〇ないし六〇%の範囲内にわたる長さで管状本体の中央通路に沿つて延びていることよりなる、比較的高速の空気流から圧力降下を小さくして、しかも除塵効率の高い空気清浄器であつて、特に近接清浄器群の構成員として使用するのに適した空気清浄器

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